街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

樹海彷徨う

 申し訳ないが、青木ヶ原樹海といえば“自殺の名所”としか思っていなかった。子供の頃見聞きした本やテレビの影響が大きい。それに、溶岩上に成立した新しい森ということで、植生も単調でつまらないと思っていた。今日初めて樹海をまともに歩いて、そんなイメージは崩れ去った。

 標高1000m強、富士山の中腹にその美しい樹海はあった。ヒノキやツガといった針葉樹中心の暗い森ではあるが、思った以上に多様な樹木が見られ、野鳥の声もにぎやかだ。溶岩が堆積していない場所には、ここは天国かと思わせるイヌブナやミズナラの林が広がる。誰もいない早朝の森の中、蛍光ペンで塗ったような新緑を背景に、樹上をリスが駆け抜け、木々の彼方にシカの尻が跳ねる。これほど綺麗な世界に身を置くと、写真を撮る気も失せてしまう。その美しさを撮れないのを分かっているから。

 帰り道、登山道を外れて道なき樹海の中を歩いてみた。その先には大きな風穴があるはずだったが、いくら歩いても見当たらない。あっちか、こっちか、と微妙に方向を変えてみるが、見つからない。さて、引き返すか、進むか。風穴が見つからなくても歩き続ければ車道にぶつかるはずだから、進み続けた。けれども、溶岩の凹凸が激しい樹海の林内では、まっすぐ同じ方角に歩くのは困難で、ジグザグしているうちに方角が分からなくなってくる。360度、景色もほとんど変わらない。そうか、こうして道に迷うのか。

 見事に樹海で迷ったことと、何かを発見してしまう恐怖心で、正直冷や汗をかいたが、そんな不安を和らげたのは、道しるべのように地際を飛び回ってくれたミソサザイと、時折遠くから聞こえてくる車の音だった。彷徨うこと約30分、予定とは違う風穴にたどり着き、無事登山道に復帰できた。お陰で、一日にして樹海を満喫した気分だ。

【今日見た主な樹木】
ヒノキ、サワラ、ツガ、ウラジロモミ、イラモミ、ハリモミ、チョウセンゴヨウ、ゴヨウマツ、クロソヨゴ、ソヨゴ、アセビ、イヌブナ、ブナ、ミズナラ、ミズメ、アオダモ、ヒトツバカエデ、コミネカエデ、ナンキンナナカマド、トウゴクミツバツツジ、ウスギヨウラク、ウスゲクロモジ、ミヤマガマズミ、ヒロハツリバナ、サワダツ、クロカンバ
【今日見た主な野鳥】
キバシリ、ゴジュウカラ(ベル音のようなフィフィフィフィフィの囀り)、ミソサザイオオルリコルリ(地面を歩き、コマドリに似た囀り)、キビタキコサメビタキ?(ホバリングして幹のコケを集め巣作り)、センダイムシクイ(囀りにバリエーション?)、アオゲラコゲラ、ヒガラ、エナガシジュウカラホオジロキジバトアオバト(声のみ)、アカハラ(声のみ)、イカル(声のみ)