街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

聖なる夜に感謝して肉を食え

 クリスマス・ディナーの前に映画を見てきた。映画といっても、「食」をテーマにしたドキュメンタリー、その名も『いのちの食べかた』。原題は『OUR DAILY BREAD』とあり、宗教的な意味合いもあるらしいが、直訳すれば「日々の私たちのめし」といった感じか。飽食時代における食糧の大量生産の現場をただひたすら流し続けた映画で、個人的には原題のままでもいいと思う。ナレーションも字幕もないとは聞いていたけど、本当に全くないとは。それでも、コクリとする間もなく92分間は過ぎた。

 東京・渋谷のミニシアターは観客20〜30人しかいなかったが、街柄のせいか意外と若者も多い。映画が始まると、トマト、りんご、鮭から、鶏、豚、牛まで、さまざまな食べものの生産シーンが順を追って少しずつ流される。冒頭のひよこがベルトコンベアーで仕分けされていくシーン。それを見た隣の若いカップルは、クスクスと笑った。ひよこがまるで「工業製品」のように扱われる様子は、キョトンとしたひよこの愛らしさと相まって確かに滑稽で、妥当なリアクションと思う。

 やがて豚や牛が屠殺され、解体されていく。想像はしていたけど、見たことのなかった映像。食べられるためだけに生まれてきた生き物が、当然のように殺されてゆく。その横に、欲望のままに食べることをに生きがいにしたような小太りの人間がいる(←出演者個人ではなく現代人全ての象徴だ)。両者の対比が僕には印象的で、両者とも哀れに見えた。もっとも、このマイナーな映画を見に来る人の多くは、自分たちの食生活に少なからず自虐的な疑問を抱いているはずだ。反対に予備知識が全くない人がこの映画を見たら、何をしているのか理解できないシーンも多いだろう。(←これは鑑賞後にパンフレットを購入することで解決できる)

 ともあれ、日頃は肉を食べず、自らの畑で野菜を作っている今の自分は、やっぱり正しかったという安堵感が湧く。でも、返り血を浴びてでもウマイ肉を食いたいのが人間の本性だろう。年に何度かは目の前で獣を屠り、それを特別な日に感謝していただくのが本来あるべき姿と思う。屠殺のシーンを見たからもう肉は食べられない、ではダメなのだ。聖なるこの夜、久しぶりに絶品の牛ステーキを食べた頃には、僕はこの映画のことは忘れていた。