街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

パウダースノーの四国・桑瀬峠

 一瞬、頭上のガスがすーっと流れた。真っ白な雲と雪の間からのぞいたのは、深く深く青い空。パシャパシャとシャッターを6、7枚切って顔を上げると、またガスで白く染まった。今日見た紺碧の空は、この一瞬だけだった。

 今朝まで2日間降り続いた春のドカ雪は、地元のトラック運転手に言わせれば25年ぶりの大雪だとか。愛媛県高知県境の旧寒風山トンネル(1140m)に至る旧国道には、20〜30cmの新雪が積もり、パジェロミニはこの日最初の轍をつけながら突き進んだが、雪が車の腹をこすりはじめ、車体が浮き始めたところで断念。車道を1.5kmばかり歩いてようやく登山口に辿り着いた。今日の雪はとにかくサラサラのパウダースノー。富山の友人から送ってもらったマンサク製のかんじきをはき、慣れない大雪の急斜面をもがき登る。幸い一足先に登っている地元の人がいたので、そのトレースを頼りにすることができたが、彼がいなかったらどこか登山道だか分からない。

 稜線の桑瀬峠(1451m)に到達する直前にこの青空を見た。桑瀬峠に着くと、眼下には瀬戸内海と西条・新居浜の街が見えた。下界は晴れているが、頭上は白い雲。峠の両側に見えるはずの寒風山(1763m)と伊予富士(1756m)の山頂は、いずれも雲に覆われて見えない。ここから伊予富士方面にはトレースがなく、積雪1.5m前後ものパウダースノーの上に自分の道をつくりながら突き進む。霧氷の木々を横目に「これが雪山の醍醐味か」と、果敢な雪山登山者たちの心理が少し分かった気がした。

 やがて目前にやせ尾根の急斜面が現れ、赤テープを頼りに登ろうと試みたが、新雪が胸の高さまで来るほどになり、時間も圧していたのでここでUターン。標高1530mの場所に小さな雪洞を掘り、コンロでキムチ鍋を作って食べた。手が凍るほど冷たかったけど、僕の心はキムチと景色で熱く満たされた。


【今日見た樹木】
ミツバツツジ類、コメツツジ△、タンナサワフタギ、オノエヤナギ△、ヤマヤナギ△、ナナカマド、ノリウツギウラジロモミ、ツガ