街森研究所

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山口県庁大混乱;不可解な山口県の応対

(私はこの現場に居合わせ、この事実を詳細に記録する必要を感じたのでここに記します)

 朝9時、山口県庁前に大型バス2台が横付けされると、「原発絶対反対」のはちまきを巻いた祝島(いわいしま)の島民約50人が、次々と県庁内に駆け込んでいった。目的は、中国電力が申請した上関(かみのせき)原子力発電所予定地の埋立免許願書に対し、許可を出さないように求める署名2,365筆を、二井関成(にい せきなり)山口県知事に手渡すことである。上関原発予定地の対岸4kmで漁業や農業を営む祝島住民にとって、原発建設は物理的にも精神的にも生活を脅かす深刻な問題であり、最大の利害関係者でもある。

 ところが、知事室がある県庁3階別棟への渡り廊下(通常は一般開放)入口では、ドアを封鎖して県職員らが立ちはだかっていた。島民らはその前に座り込み、「県民に怨を残させるな!!」などと書かれた横断幕を手に、原発反対のかけ声をあげた。前日、上関原発反対を訴えるピースウォークで県庁を訪れていた若者ら約20人も駆けつけ、地元の全テレビ局や新聞記者、私服警官も次々と集まり、3階ロビーはにわかに緊迫とした雰囲気となった。約5時間に渡る山口県庁大混乱の幕開けである。

 ドアの前では、祝島住民らと県の担当職員が口論を続け、1時間が経とうとしていた。「なぜ通してくれないのか?」「なぜ県知事は出て来ないのか?」「県知事は今どこにいるのか?」「県知事の今日のスケジュールはどうなっているのか?」 これらの質問に対し、県職員は「商工労働部が署名を受け取って知事に渡すから、8階に移動してくれ」「知事の所在や意向は分からない」「私は知事の担当ではない」などを繰り返す。「知事のスケジュールが分かる人を出してくれ」と頼んでも返事はなく、無視される。会話がまるで成り立たない。

 知事のコメントや所在が伝えられたならともかく、まるっきり情報が与えられずに一方的に県民を排除する山口県の姿勢を、マスコミを含めこの場にいた誰が理解できただろうか。しびれを切らした祝島住民の一人が、「力ずくでも入れるぞ、それでもええんか」と叫んで、後方に消えた。その数十秒後、封鎖されたドアの向こうに、数人の祝島住民の姿が現れた。隣の部屋の窓から、ベランダづたいに渡り廊下に渡ったのだ。彼らが外からドアを押し開けると、「危ないからやめて下さい!」という叫び声が響く中、祝島住民らが堰を切ったように渡り廊下に流れ込んだ。

 彼らが知事室のある棟まで達すると、今度は県職員らが腕を組んで壁をつくり、祝島住民の前に立ちはだかった。祝島の女性たち、通称おばちゃん部隊は、廊下の窓をたたいて知事に会いたいと叫び、自分を突き飛ばした県職員に対して大きな声で詰め寄った。一帯は騒然とし、異常事態が起きている空気が県庁内に走った。県職員の数は次第に増え、人間の壁は3重にも4重にもなった。その前に祝島住民らが座り込み、再び解決口の見えないにらみ合いが始まる。強行突破の際、祝島住民が持参した署名用紙は県職員によって踏まれ、外袋が破れた。祝島の代表者は、「県民の意見を踏みにじるっちゅうのは、まさにこうゆうことじゃの」と皮肉った。

 座り込みが続くこと約1時間、県の職員が「警告」という札を持って現れた。公務妨害を理由に退去警告の書面を渡しに来たのだ。県知事への署名を手渡せないでいる祝島住民が、この警告書を受け取るはずがない。警告を無視したことで、次は警察の機動隊でも連れて来るのだろうか。この時点ではまだ警察は静観しているだけだったが、そんな威圧的な雰囲気が伝わってきた。大勢の県民を強制退去させるより、県知事ただ1人がこの場に姿を見せれば事は解決することを、県の人間は分からないらしい。

「このような非常事態が起きているのに、知事は5分でも時間を取って会うことはできないのですか?」との質問に、県職員は「このような状態ではそれはできません」と答えた。「誰のせいでこのような状態になったのですか?」と尋ねると、「あなたたちです」と県職員。その瞬間、祝島住民たちから罵声が上がった。それもそのはず。これまで祝島住民は、原発反対を訴えて何度も県庁前に抗議に来ているにも拘らず、知事本人は毎回姿を現さず、面会拒否を貫いてきたのである。この日も二井知事は県庁内におり、11時から県庁内で行われるメダル栄光授与式に出席予定だったが、急きょ欠席した。その間、何をして、何を考えていたのか。

 沈黙のまま座り込みは続き、スクラムを組んで立ちっぱなしの職員も、疲労の色を隠せなくなっていた。時折投げかけられる質問に回答するのは、商政課の企画監ただ一人。残りの数十人は、まさに壁のよう無言のまま立ちはだかるだけだ。彼らは何を守りたくて必死にここに立っているのか。祝島住民らが交代で昼食を済ませた13時過ぎ、改めて県知事の意向が伝えられた。「知事が直接祝島の皆さんとお会いすることは考えていない」。いつもの決まり文句である。それとほぼ時を同じくして、秘書課の責任者へようやく電話が繋がり、知事は正午前には既に公務で県庁を離れていたことが判明した。これを知った祝島住民らは、「知事は祝島住民を見捨てたと理解した。ケンカを吹っかけてきたと理解した」と激怒し、座り込みを終了して署名を持ち帰ることを決めた。

 そしてこの後、県政史に例を見ないであろう、県庁内デモ行進が始まる。祝島住民らは、土木建築部港湾課のある県庁11階に移動し、横断幕やプラカードを掲げてシュプレヒコールをあげ、各階を練り歩いた。「上関原発反対!」「きれいな海を守ろう!」「エイエイオー!」。祝島で反対運動を25年以上続けてきた恒例のかけ声が、多くの県職員が仕事をする県庁内にこだまする。こうまでして県民が声をあげなければならない理由は何だろうか。そうまでして二井県知事が祝島住民と会いたくない理由は何だろうか。理解不能でまるで誠意の感じられない県知事の応対、県職員の態度。山口県は、県内に原発が必要な理由を「国策だから」と言った。「上関町の意思に対し、県知事はどうこう言う権限はない」と言った。では何のために、誰のために県は存在するのか。

 座り込みが解除された後も、腕を組んだまま無言で突っ立つ県職員に対し、一人の若者が吐き捨てた。「お前らそれでも人間か!」 板挟みの立場にある県職員らを同情する見方もある。ならば、この事態を受けて何人の県職員が「今すぐ会うべきです!」と知事に意見を述べたのか。若者の叫びは、この場に居合わせた正常な人間の叫びである。

(地元テレビ局で放送されたニュース)