街森研究所

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上関町役場の密室で多数決される重大議案

 民主主義の原則は多数決である。では、少数意見は無視してよいか。もしそうなら、多くの社会問題は簡単に解決するだろう。地域格差情報格差、所得格差、健康格差・・・どれも少数派の意見は切り捨てればいいし、ゴミ処理場、火葬場、刑務所、屠畜場、軍事基地、原子力発電所などの迷惑施設はへき地に押しつければいい訳で、都会人や政治家にとってこれほど楽なことはない。だからこそ、真の民主主義には理性的で人間的な対話が求められるのである。

 山口県の上関(かみのせき)原発計画で、事業者の中国電力が申請した予定地の埋め立て許可請願に対し、地元・上関町の判断が下される定例議会(13時半開始)が開かれた。柏原町長が提出した埋め立てに同意する意見書に対し、賛成議員8、反対議員4で可決される“予定”の議会である。

 当日は、20席の傍聴券を求めて、11時過ぎから上関町役場前に行列ができた。その数251人。埋め立て予定地対岸の祝島(いわいしま)の反対派住民をはじめ、上関町内の推進派住民、町外から駆けつけた住民に加え、中国電力の関係者もいただろう。抽選の結果、推進派8、反対派12で傍聴席は埋まったようだ。抽選に外れた住民ら100人余り(ほぼ全てが反対派住民)は、役場内の廊下で議会を聞くことを求めたが、ふだんは出入り自由な廊下がこの日は封鎖されていた。「建物が老朽化しており、大勢の人が(会議室のある)2階に上がると危険だから」だそうだ。

 住民らは議会を聞けない不満をぶつけ、強引に階段に近づこうとするが、Yシャツ姿で無言の職員らが壁になって立ちはだかる。・・・少し前にどこかで見た光景だ。そう、9月10日の山口県庁での出来事にそっくり。これが役人の大事な仕事の一つなのかと、ちょっと呆れてしまった。気をつけて見ると、あたりには無線機をつけた私服警官らが目を光らせ、少し離れた場所には機動隊?らしき警官約10人を載せたワゴン車も待機していたようだ。

 結局、住民らはなす術なく、役場前の路上で会議室の窓からわずかにもれてくる声に聞き耳を立てるしかなかった。約3時間にも及ぶ長い議会の間、時折議員の弁論が聞こえたり、傍聴者の罵声が響いてくる一方で、路上では横断幕が広げられ、「埋め立ての許可するな!」「議会の内容を教えろ!」といった大声が響いた。そして、日が傾いて涼しくなった頃、わずかに漏れてきた議長の声で、埋め立て同意の議案が採決されたことが分かった。思いがけないほどあっけなかった。

 議会終了後に出てきた議員や傍聴者の話によると、質問をするのは反対派議員ばかりで、それに対して推進派議員はみな黙り込み、ほとんど回答がなくて討論にならなかったという。それでも、議長が最後に議決を取る時には、黙っていた推進派議員らが一斉に起立し、賛成多数で採決されたという結末だ。なお、先日の山口県庁での対応と異なる点は、議会終了の日没まで座り込んだ住民に対し、短時間とはいえ上関町長が(反対派議員に促されて)挨拶に現れたことだろう。

 全国で9つしかない、情報公開条例がない自治体・上関町。その閉ざされた小さな会議室で、総事業費8000億円といわれる国策の上関原発建設に向けた第一歩が踏み出された。この重大議案は、たった12人の議員の多数決によって決められる。金で動く人間、自治体は、理性的な対話ができないから、多数決という仕組みが有り難いだろう。もし、金で動いている訳ではなく、社会のために原発が必要という論理なら、12人というちんけな多数決ではなく、山口県全体で住民投票を行い、公正な多数決を取ればいい。現時点では、山口県内で使われている原発の電力はほぼゼロであり、結果次第でいかようにもエネルギー政策の転換は可能である。