街森研究所

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黒米育つ! 無農薬田んぼに現れた生き物たち

 8月末からブログが止まったままでしたが、久しぶりに復活です。この間ももちろん田んぼ作業は続いてたわけで、試行錯誤しながらも無事豊作を迎えることができました。その過程の記録として、遅ればせながら<春編>に続いて<夏編>をレポートします。

 上写真は、田植えから1週間が経過した6月23日の風景です。初夏のさわやかな若草色がまぶしいです。僕が黒米(品種名:朝紫:もち)を育てている田んぼは、一番左下の細長い町(まち:一区切りの田んぼ)と、手前の不耕起ゾーンです。友人が作る一段上の町は、雑草対策で糠(ぬか)を入れているので色が違います。僕は試しに糠を入れなかったのですが、はじめの1ヶ月間で比較しても、糠を入れた田んぼは目に見えて雑草の発生が少なかったです。

 7月初旬になると、稲も一回り大きく成長してきました。根元が黒紫色なのが分かるでしょうか。これは黒米の特徴で、葉にも所々黒紫色の模様(斑:ふ)が入ります。この頃、田んぼの手前半分に藻(も)が大量に発生し始めました。手に取ってみると、スポンジを荒くしたような網目状になっていて、どうやらアオミドロによく似た「アミミドロ」という藻のようです。藻が発生すると水温が下がり、稲の成長が遅くなるとも言われるようですが、一方で日光を遮ることで雑草の発生を抑える効果もあり、水を抜いて枯らせば肥料にもなるとのことで、何も手を加えず見守ることにしました。

 さて、そんな藻の合間からも様々な水田雑草が生えてきます。無農薬・有機栽培の稲作をする上では、雑草の管理は最も大事な要素。しかも、花が咲いてから草の名前が分かったのでは遅く、芽生えの頃から雑草の種類を特定することが大切です。そこで、花が咲く前の姿を見ながら、定番の雑草を覚えていきたいと思います。

 まずはコナギ(小菜葱:ミズアオイ科)です。観賞用水草で知られるホテイアオイを小型にしたような形で、晩夏に紫色の花を咲かせます。水田雑草の定番中の定番ですが、見た目は結構美しくて、手で簡単に引っこ抜けるので、そんなに悪いヤツという気はしません。生え始めの葉は細いので別種のように見えます。地元の農家さんは「いもがら」という方言で呼んでました。

 続いてヒエ(稗:イネ科)です。ヒエにはいくつかのタイプ(変種)があり、写真の個体は穂に毛(芒:のぎ)が多い「ケイヌビエ(毛犬稗)」のようです。僕の田んぼにもタイヌビエ、イヌビエなど3タイプぐらい見られるようです。水田の強害草として最も恐れられているだけあって、太い茎や葉をぐんぐん伸ばして力強く成長し、稲より大きな1m前後の丈になります。稲が小さな頃は大きなヒエはよく目立つので、見つけては取るのですが、バリバリっと根っこから引き抜く作業は結構気持ちいいです。

 次はカヤツリグサ(蚊帳吊草:カヤツリグサ科)です。この仲間もたくさんの種類があるのですが、僕の田んぼに多いのはやや小型の「コゴメガヤツリ(小米蚊帳吊)」のようです。カヤツリグサ類は茎の根元の断面が三角形をしていることが特徴で、陸地に生えたものは根が張ってなかなか抜けないのですが、水田内に生えたものは簡単に抜けてしまいます。以上のコナギ・ヒエ・カヤツリグサが、指導を受けた地元の有機農家さんに「これだけは絶対に増やすな」と言われた強雑草3種です。

 これら以外にもよく目につく雑草はいろいろあります。水際の畦(あぜ)に多く生えてくるのが、ヒデリコ(日照子:カヤツリグサ科)です。軟弱そうな細い葉っぱですが、どんどん株が大きくなっていって、晩夏に丸い球状の小さな実を多数つけます。引っこ抜くのは簡単ですが、たくさん生えてくるので途中からほったらかしました。タネがたくさんこぼれただろうから、来年はもっとたくさん生えてくるかな。

 続いて、左がタカサブロウ(キク科)で、手に取っている方はチョウジタデ(丁字蓼:アカバナ科)です。両者はよく似てますが、タカサブロウは葉が対生(たいせい:対につく)するのに対し、チョウジタデは互生(ごせい:互い違いにつく)です。両者ともさほど強い雑草ではありませんが、放っておくと50cm以上の丈になります。タカサブロウは水際の畦に生えることが多く、チョウジタデは水田内にも生え、両者とも簡単に引き抜けます。

 これは不耕起水田ゾーンに繁茂したミゾソバ(溝蕎麦:タデ科)です。通常は水田内に生えることは少なく、畦や水路沿いに生えることが多いようです。引き抜くのは簡単ですが、茎に小さなトゲがあって、つる状にどんどん広がっていくので多少厄介です。こいつが不耕起田の約半分に繁茂し、ミゾソバに覆われた稲の分けつ(根元で茎が増えて分かれること)が止まってしまったので、少し駆除しました。自然農とはいえ、放置するだけでは稲は自然の草たちに負けてしまいます。人が力を貸してやるラインが見えた気がしました。

 こちらはアゼムシロ(畦筵 別名ミゾカクシ/溝隠:キキョウ科)です。初夏から夏に可愛らしい薄ピンクの花をつけます。畦にむしろを広げたように群生することが名の由来らしく、別名にもある通り、水田内よりも溝や畦に生えることが多い雑草です。僕の田んぼでは、水路の整備以外では、アゼムシロに手を焼くことはありませんでした。なお、左上に見えるのはミゾソバの葉っぱです。

 中にはこんな珍客も現れました。ハス(蓮:スイレン科)です。隣にハス田があるので、昔そこからこぼれたタネが、休耕田の土の中で何年間も眠っていたのでしょう。二千年前のタネから芽生えた「古代ハス」もあるぐらいですから、あるいはもっと昔のタネかもしれません。面白いのでこのまま残しておいたら、小ぶりながら結構成長しました。

 8月初旬の田んぼの内部の様子はこんな感じです。大型の雑草は適度に駆除したので、小型のキカシグサ(ミソハギ科)やコケオトギリ(苔弟切:オトギリソウ科)が見られますが、雑草の密度は低くていい感じと思います。稲作1年目ということで、雑草の種類や成長速度を知るためにむやみに雑草取りを行わず、花や実がつくまで残しながら見守ってみました。去年まで休耕田で水が抜かれていたこの場所は、やや乾いた場所に生える「畑雑草」が主体だったわけですが、来年からは湿り気を好む「水田雑草」が増えるので、雑草取りは今年以上に苦労するでしょう。

 植物ばかりではなく、もちろん動物も現れます。これはミズカマキリ(水蟷螂:タイコウチ科)の子供。たくさん見られたので、近くの田んぼから産卵しに来たみたいです。他にはマツモムシやコオイムシも確認できました。タイコウチの出現は期待したのですが見られませんでした。

 これは何だろう? と思って、水にぷかぷか浮かんでいた物体を手に取ると、中に卵やイモ虫が! 調べて見るとコガムシ(小牙虫)の卵のうでした。今年、水田内に見られた甲虫は、ハイイロゲンゴウとコガムシが大半でした。もっと別のゲンゴロウ類や、でっかいガムシにも来てほしいものです。

 こちらは害虫のセジロウンカ(背白雲霞:ウンカ科)です。7〜8月に中国から飛来してくるため「夏ウンカ」の通称で知られ、背中に白い筋があります。ウンカといえば大発生して稲の汁を吸う害虫ですが、大被害を受けるのは秋に発生するトビイロウンカ(秋ウンカ)の方で、夏ウンカは「肥料になるから放っておいていい」と農家のおじさんも言ってました。僕の田んぼで最初に発見したのは7月4日で、多いと1株に20匹ぐらいいたと思いますが、特に目立った害もありませんでした。夏ウンカが来ることで、害虫を食べる益虫も田んぼに集まってくるといいます。こうした自然の力を最大限活かしたいですね。

 8月9日、いよいよ出穂(しゅっすい)が始まりました! 感激の瞬間です。興味深いことに、出穂が一番早かったのは苗代に残したままの余った苗でした。続いて、不耕起水田の稲、最後に普通の水田の稲の順に穂が出ました。これらの時間差は数日でしたが、生育環境の良さの反対順であることから、株を大きくすることを断念した個体から出穂が始まったと推測できます。

 出穂直後の風景です。青々と生い茂った田んぼはとても美しいです。黒米(品種名:朝紫:もち)は葉の緑色が濃く、隣の田んぼ(ヒノヒカリ系)と比べても色の違いがお分かりでしょう。分けつは1株25本前後で、茎も太くて丈夫な印象があります。農家のおばあちゃんからも「立派なええ稲に育ったねぇ」と褒められました。今年は山口県を集中豪雨が襲い、7月は記録的な降水量でしたが、この田んぼで心配なのはむしろ水不足で、豪雨の影響はほとんどありませんでした。元気に育った稲たちは、8月の日差しをいっぱいに浴びながら収穫の秋を待ちます。