街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

充実の収穫! 自然の恵みと営みを実感した秋

 2009年、初めて挑戦した完全無農薬・有機栽培の米づくりを、<春編><夏編>に続いて<秋編>にまとめました。
 例年になく涼しかった8月が過ぎ、出穂から43日が経過した9月23日。重たく熟した稲穂の頭(こうべ)がたれ、いよいよ稲刈りの時期を迎えました。ふつうの稲の場合、稲穂も葉も黄金色を帯びて大変美しいのですが、黒米(朝紫)の場合はちょっと様相が違い、褐色の強い穂(病気で枯れた穂の色に似ています...)と、濃い緑色の葉のコントラストが印象的です。そのため、稲刈りの適期の見極めがしにくいのですが、出穂からの日数と米粒の堅さなどから判断しました。

 これが稲刈り直前の株の様子です。分けつは約25本、株の丈は80cmほどで、隣のヒノヒカリ系品種と比べると10cmぐらい低いです。稲穂が熟した後も、次々と株の中心から新たな若い穂が出てくるので、これまた稲刈りのタイミングを迷うのですが、生育旺盛な黒米の性質らしいです。

 こちらは不耕起ゾーンの様子です。かなり放置したせいでヒエやカヤツリグサもかなり生えており、分けつは通常の半分程度です。でも、しっかりと実っています。稲刈り用ののこぎり刃の鎌を持って、さっそく稲刈り開始・・・

 ザクッ、ザクッと力強く稲を刈る音、感触。手のひらいっぱいにはち切れんばかりの稲の束。稲刈り体験で2,3度やったことありましたが、一から田んぼをつくって収穫するこの充実感は人生初めての感覚です。上写真は、刈り取った稲の束をワラで結んでいるところです(写っているオッサンは僕です...)。農家のおじさんに去年のワラをもらい、その場でなった縄でワラを腰にぶら下げ、手際よく稲を結んでいきます。お手本を見せてもらったのですが、慣れると感動的な早さで結べるようです。

 それと稲刈りをして初めて知ったのですが、黒米の茎の断面は、このように鮮やかな青紫色をしています。自然の色とは思えない美しさでちょっと感動しました。これが黒米の栄養素と言われるアントシアニンの色なのでしょうね。

 刈り終えた稲は、モウソウチク(孟宗竹)とハチク(淡竹)で作った稲架木(はざき)にかけて干します。このあたりでは稲架木を「なる」と呼び、稲を干す作業を「はぜ架け」と呼んでいるようです。竹は、田んぼのすぐ横にある竹やぶから切らせてもらいました。最近は西日本を中心に竹林の拡大が問題となっていますが、昔から農具に使われてきた竹を最大限に活用したいものです。晴天のもとで丸一日も干せば稲はすぐ茶色くなり、ぷ〜んと甘い米の香りを漂わせます。この香ばしさも初めての体験でした。

 さて、次は脱穀の時期を見極めないといけません。晴天続きなら1週間も干せば十分と言いますが、稲刈りが完了した9月27日(3回に分けて稲刈りしました)以降は雨も結構降りました。8日目の10月5日に農家のおじさんに言われて水分計で玄米の水分を計ってみると18.5%。これが15%台ぐらいにならないといけないらしいです。その後、23日目の10月20日に計ってみると13.6%。ちょっと乾きすぎた? 米粒を食べてみるとカリカリでした。

 ともあれ、十分乾いた方が籾(もみ)が外れやすく、脱穀や籾すりがスムーズにいくそうです。今回は初めての田んぼなので、昔ながらの手作業で脱穀をやりたいと思い、自然農の先駆けである知人(自然菓子工房・欧舌さん)から足踏み脱穀機と唐箕(とうみ:風で籾とゴミを分別する装置)を借りてきました。足踏み脱穀機は小学校の実習田で使ったとき以来! 楽しい作業ですが、うまくやらないとなかなかきれいに脱穀できません。

 足踏み脱穀機で脱穀しただけだと、巻き込まれたワラや穂がたくさん紛れ込んでいるので、まずは目の粗いザルでこれらのゴミを取り除きます。これは結構面倒な作業です。それにワラが肌に当たると、とってもかゆくなる場合があるので注意です。次に唐箕にかけて、さらに細かいゴミを風で吹き飛ばします。

 後ろに移っている青いのが唐箕です。昔ながらの木製の唐箕ではなく、金属製の唐箕を使いました。手前のワラは何をしているか分かりますか? 冬の間に使うワラを束ねて保管する藁塚(わらづか:地元では「のうぐろ」と呼んでいる)を作っているのです。
 

 完成するとこうなります。地方によって藁塚の形はいろいろありますが、僕の地元ではこの形をよく見ます。子供の頃は「あの小屋には誰が住んでいるのだろう?」と不思議に思っていましたが、大人になってようやく藁塚の役割、作り方を知りました。自分で作り上げるとかなり感激です。必要に応じてワラを引っこ抜き、畑や花壇のマルチ(防寒・雑草対策)に使っています。

 そして収穫した籾はこの2袋。1.1畝(せ)=1.1a=110平方mで合計50kg。持ち上げるとズシリと重く、充実の収穫と言いたいのですが、半年間の苦労がこの2袋だとすると、決して多くない気がします・・・

 脱穀が完了した10月22日の風景です。一番左下の僕の田んぼは、収穫後の藁塚が残るだけとなりました。隣の友人の田んぼはちょうど稲刈りの時期で、黄金色の稲が美しく、まさに収穫の秋を感じる里山の風景です。

 これは籾すりをする前の籾です。黒米の籾はこのようにやや黒ずんだ褐色の強い色です。次は籾摺り(もみすり)です。籾殻を取り除いて玄米にする作業で、土臼(どうす)があればこれも手作業でできるのですが、今回はあてがなかったので、知人の小型籾摺り機を使わせてもらうことにしました。

 電源を入れると大きな音を発するこのマシンに、上から籾を投入すると、右の青い筒から籾殻が噴射され、左後方のちびっ子がのぞき込んでいる袋に玄米が出てきます。籾すり機って初めて見たのですが、文明の力はすごいですね。

 そしてこれが玄米が出てきたところ。ここで初めて黒米の黒色が現れます。いやぁ、感激ですね。やっと食べられる状態になりました。玄米の重量を測定すると、籾の状態から20%(10kg)ほど減って合計40kg。1.1畝で40kgだと、1反(たん)=1ha=1000平方mあたり364kg=約6俵。これは有機栽培の黒米(朝紫)としては十分な豊作だそうで、そう知って安心しました。

 藁塚に使わなかったワラは、押し切りという刃物で10cm程度に刻んで田んぼにまきます。このワラが土に返り、翌年のお米の栄養になるのです。地元の有機農家さんは、冬の間に海岸に流れ着いた海藻やヒトデも肥料としてまくそうです。僕の田んぼでは稲刈り直後にレンゲの種をまきました。レンゲの根には根粒菌が共生するため、空気中の窒素を養分として土中に蓄える効果があります。写真は11月21日の田んぼです。稲の切り株からは二番穂がたくさん生え、ワラの隙間からはレンゲの芽が生えていました。

 さて、黒米をはじめ最近ブームの古代米といえば、ふつうの米に5〜10%程度混ぜて炊き、色づいたご飯を楽しむのが通常ですが、黒米はもち米なので、僕は餅を作りたいと思っていました。ただし、黒米が黒いのは玄米の時だけで、精米すると普通の白いもち米になってしまいます。なので、黒い餅をつくるには玄米のままつきます。写真は、ゴマすりで少し傷つけた黒米を4日間ほど水に浸けたものです。やや発芽しているものもあります。こうすることで、水を十分に吸い込んで柔らかい餅ができます。

 12月12日と31日に、無農薬米を作っている近所の知人宅で餅つきをしました。いやぁ、臼と杵を使った昔ながらの餅つきなんて、小学校の時に親戚の家でやったの以来でワクワクです。写真は、蒸篭(せいろ)で普通のもち米と黒米を2:1で蒸したものです。これをみんなでペッタン、ペッタンとつきました。

 できあがった餅です! ずいぶんカラフルで賑やかしょう。奥の黒いのは黒米100%で作った餅、手前の茶色いのは兄が作った緑米100%の餅(ついた直後は淡い緑色でしたが1時間もすると茶色くなりました)、左の緑色のは普通のもち米で作ったヨモギ餅です。黒豆入り、あんこ入り、赤米の餅も作りました。黒米100%の餅はあんこより黒い黒色で、かなり斬新です。なお、黒米は普通のもち米より風味が劣るようで、玄米には正露丸に似たような特有の弱い匂いがあり、精米すると逆に何も匂わなくなり、もち米特有の香りもほとんどしません。でも、餅にしたら色以外は違和感なく美味しくいただけます。

 肌寒い冬を迎えた12月24日の田んぼの風景です。手前の田んぼや畦(あぜ)がボコボコに掘り返されているのが分かりますか? 今年最後にやってくれました。イノシシです。この田んぼは周囲の森林から数十m離れているため、夏の間はイノシシの被害に遭うことは全くなかったのですが、冬になって周囲の電気柵が外されたせいか、食べ物が減ったせいか、イノシシがやってきて畦を派手に破壊してくれました。おまけに不耕起ゾーンもきれいに耕してくれています。来春はイノシシ君も田起こしを手伝ってくれるって?