街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

一度は見たかった秋吉台の山焼き

 新燃岳噴火!? 山火事!? いえいえ、これは日本最大級のカルスト台地として知られる、山口県美祢(みね)市の秋吉台(あきよしだい)の風物詩です。カルスト台地というと、緑の草原に白い石灰岩がたくさん突き出た風景がイメージされますが、この風景は「山焼き」と呼ばれる火入れ作業を毎年行うことで維持されているわけで、放ってておくと(写真手前の黒い部分のように)森林化してしまうはずです。

 秋吉台では山焼きは毎年2月に行われており、全国各地のススキ草原の名所でも、同じようにこの頃に火入れが行われているものと思います。僕は一度も火入れの様子を見たことがなかったので、山口県民としてぜひ秋吉台の山焼きを見ておきたいと思ったのです。

 当初予定の2月20日が積雪のため延期となり、その後晴天が続いた2月26日に決行されました。火入れ1時間半前の朝8時に到着すると、最寄りの駐車場は満車だったものの、秋芳洞に潜る地下エレベーターの駐車場はまだスカスカ。山焼き見学の一等地である、カルスト展望台の最前線は三脚に陣取られていましたが、意外と人が少なくて、何時に来ても間近で炎を見ることができるようです。

 火入れ開始。はじめは遠くで煙が上がるだけでしたが、やがて一般見学者が入れるエリアの目の前にも火が放たれます。パチパチッという大きな音と共に、乾燥したススキやネザサをはじめ、ハギなどの低木類も次々燃えていきます。写真中央が大きくくぼんでいるのがお分かりでしょう。これはドリーネと呼ばれるカルスト地形特有のくぼみで、石灰岩が雨水で溶けてできるのですが、この底まで火が達すると、勢いが一気に増して炎が斜面を駆け上がります。圧巻でした。

 こんなに大きな炎を見たのは初めてかも知れません。本能的にちょっとドキドキしてしまうのが不思議です。でも、この感覚はあながち間違っていなかったみたいです。というのは、山焼きの翌週に「夜の山焼き」というイベントが行われるのですが、そのために若竹山と呼ばれるエリアを燃やさず残しておくはずだったのに、この日は例年になく火の勢いが強く、その若竹山まで燃えてしまったみたいです。

 これが山焼きがほぼ終了した11時頃の写真です。若竹山周辺に草原が少し残っていますが、もう手遅れだったみたいです。数日後、新聞の片すみに「夜の山焼き中止」の見出しが載っていました。悲しいかな・・・でもすごかった、山焼き。

 ちょっと気になったのは、この山焼きの意味や歴史を説明する資料が現地になかったことです。山焼き終了後に秋吉台科学博物館を訪ねてみましたが、山焼きを説明する資料はありませんとのこと。係員の説明によると、山焼きの歴史は岩石の分析から約300年前頃からと推定されており、かつては屋根葺きや飼料などに使うカヤを生産する目的で火入れが行われていたそうですが、今はカヤの生産はごくわずかになり、もっぱら景観維持(草原状態を保つ)のために行っているとのことでした。昔はカヤ(ススキやチガヤ)を生活に取り入れていたこと、火を入れないと草原を維持できないこと。この山焼きイベントを通して、自然や文化のことをもっと多くの人に知ってほしいものです。

【今日見た主な樹木】
タブノキ、クスドイゲ、ナンテン、ハゼノキ、エノキ、クヌギ、コナラ、ニガキ、ヤマザクラ、ヤマグワ、マユミ、アオキ