街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

鹿児島・宮崎の照葉樹林で亜熱帯を感じる

 梅雨の一瞬の晴れ間を縫って、6月22日からの3日間、南九州の鹿児島県と宮崎県で照葉樹林を巡ってきた。まず訪れたのは、マングローブの北限と言われる鹿児島市喜入(きいれ)のメヒルギ林。植物学界ではちょっと有名な場所で、国道沿いに見学用の駐車場や看板もあるのだが、その近くの河口にもっとマングローブらしい群落が見られる。ここは沖縄で見られるマングローブのミニチュアの雰囲気で、とてもいい場所だった。目の前に新しい橋が建設中で開発の波が押し寄せているが、今後は道路からより目立つ場所になるので、むしろ保護が進むかもしれない。

【確認した注目樹木】
ヒルギ、ハマボウ花、テリハツルウメモドキ、ナツフジ


 続いて薩摩半島の先端・指宿市(いぶすきし)にある知林ヶ島(ちりんがしま)の対岸にやってきた。この島は潮が引くと長さ800mもの砂州(さす)で繋がり、歩いて渡れる観光地になっている。思ったより太い砂州で、幅30m前後ありそうだ。島の植物は特に大したことなさそうなので、写真だけ撮って海浜植物を観察して帰る。なお、今回は妻と3ヶ月の息子も初同行した取材旅行だ。

【確認した注目樹木】
マサルトリイバラ、マルバグミ、アキグミ、ホウロクイチゴ


 次は薩摩半島の東南端、ソテツ自生地がある竹山(202m)に来た。こんもり突き出た岩山とは知っていたが、その中腹あたりまで登ると、草ヤブの向こうの断崖絶壁にソテツの大群生地が現れた。これは圧巻の景色だ。背後には富士山型シルエットの開聞岳かいもんだけ)が見え、眼下には露天温泉の湯煙が上がる緑の大地が広がる。不思議と、新婚旅行で訪れたハワイのダイヤモンドヘッドからの眺めを思い出し、指宿市が掲げる「日本のハワイ」というキャッチコピーに納得させられた。

【確認した注目樹木】
ハマビワ、ハクサンボク、クスドイゲ、ハチジョウイチゴ

 夕方、知林ヶ島を見下ろす魚見岳の登山口を散策していた時のこと。突然正面の至近距離から、中型の猛禽類が「ピュピュー」と大きな威嚇のような声を出して飛んできて、頭上を去っていった。巣か餌があるのか!? と思ったら、やはり登山道に食べかけの鳥の死体があった。よく見ると足に黄色と黄緑色の足輪がついている。既に体半分を食べられていたが、ハトぐらいの大きさだったので、オオタカハヤブサなどの猛禽類がレース鳩のドバトを襲ったのかもしれない。

【確認した注目樹木】
モクタチバナ花、アコウ、サツマサンキライ、コウゾ


 翌日は朝から雨。近年恒例の集中豪雨に近い雨の中、世界最大級の照葉樹林が残るといわれる宮崎県綾町を訪れた。ここにある照葉大吊橋(てるはおおつりばし)には5年前に訪れており、このブログでも紹介した。今回はそのつり橋を周回する遊歩道や、その先にある川中キャンプ場も歩いてみた。やはりここはいい場所だ。カッパを着て雲に霞む照葉樹林を眺めるのも味わいがある。これだけの降水量がありながら、川の水が茶色を帯びないのも、原生林が豊かな証拠だ(降雨による土壌流出が少ない)。ただ、長靴にヤマビルが3匹入り込んだのは、シカの増加に伴う懸念事項だ。

【確認した注目樹木】
オオバヤドリギ、ヘラノキ花、ヒュウガミツバツツジ、バイカアマチャ花


 次に目指したのは、亜熱帯植物が多く見られるという宮崎県日南市の虚空蔵島(こくぞうじま)。島と名がつくが、今は港ができて陸続きになっている。九州や四国では、こうした小さな離島に亜熱帯植物が多く見られる傾向があるが、離島が特別暖かいのではなく、離島の森は利用しにくかったので原生林がよく残っているためと思われる。逆に言えば、人が住む本土の森は、神社林などの「鎮守の森」を除けば、過去に一度は伐採された森ばかりと言って過言ではない。

【確認した注目植物】
フカノキ、モクレイシ、コウシュウウヤク、オオタニワタリ


 さらに南下し、串間市の石波海岸の樹林を訪れる。ここは、河口の砂浜の背後にタブノキ林が帯状に広がっており、こうした環境にこれだけ原生的な自然林が残っているのは全国的にも稀だろう。なぜなら、便利な海岸付近の平野部は、真っ先に人間の生活地に改変されてしまうからだ。日没前後の短時間であったが、ジャングルのような豊かな森で、またゆっくり訪れたいと感じた。

【確認した注目樹木】
タチバナ、カカツガユ、ギョクシンカ、コショウノキ


 最終日は、薩摩半島の西端・南さつま市の旧笠沙町方面を回ってみた。天気予報の「一日中雨」は外れ、日中は薄曇りで観察日和となった。梅雨の3日間で雨に降られたのが1日だけなら、上出来の晴れ男だろう。あまり風景写真を撮ってなかったのは失敗だが、亜熱帯性のコクテンギ(写真:開花中)やショウベンノキが林に交じり、ヘゴやバナナの木が集落内に点在したり、野生化したギンネムゲットウが道ばたに見られる風景に、南国沖縄を思い起こさせられた。

【確認した注目樹木】
コクテンギ、ヒゼンマユミ、サクラツツジ、マルバウツギ


 帰途、鹿児島市から九州自動車道に乗って北上していると、桜島サービスエリアをすぎた辺りで、左前方に目を疑うような巨大な水流が見えた。ダムが決壊したようなその爆流は、日本百名瀑にも選ばれている龍門滝という滝だった。急きょ高速を降りて見に行ってみたのだが、ここ数日の降水量でとにかくすごい水量。こんな滝を見るのは屋久島の「大川の滝」以来で、妻は「海外に見に来たみたい!」と感動していた。滝の前にある龍門滝温泉の家族風呂につかり、再び500kmの帰途についた。


 最後におまけ。これは鹿児島県南さつま市内で買った、ニッケイの葉で挟んだ「けせん団子」と、サルトリイバラの葉でくるんだ「かからん団子」とである。ずっと食べたかった念願の鹿児島銘菓で、香りが良くて甘すぎず、とても美味だった。ちなみにこのかからん団子は、亜熱帯性のハマサルトリイバラ(九州南部〜沖縄に分布)の葉が使われていた。