街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

神戸で須磨アルプスと阪神大震災を体感する

 東京出張に行く途中の2月2日、恒例の途中下車の森歩きで、以前から関心のあった須磨アルプスを訪ねてみた。神戸市須磨区の市街地背後に連なる標高約200〜300mの低山(東山〜横尾山〜鉢伏山一帯)で、岩肌が露出した「馬の背」が人気のハイキングコースだ。7年前にここを訪れようとした時は、雨に降られて断念していたので今回はリベンジである。

 新幹線新神戸駅を降り、地下鉄で15分の板宿駅で降りると、徒歩10分で東端の登山口に着く。なんといってもこのアクセスの良さが、街と山が接した神戸の魅力だ。駅前商店街で弁当を買って登りはじめると、すぐにノグルミやナナミノキといった西日本特有の樹木が現れる。しかし、やがて外来種ニセアカシアとササばかりが生い茂る尾根に出た。うーん、この光景は異様だ。よほどのハゲ山だったか、数十年前に山火事でもあったのだろうか?

 それを過ぎると、瀬戸内海式気候の乾燥地帯を象徴するウバメガシの林に入る。かなり立派なウバメガシ林で、関東ではまずこの景色は見られない。そして間もなく現れる昼食休憩にぴったりのピーク、東山にたどり着いたところで、地元のハイカーに「馬の背」が一望できる高台を教えてもらった。「うゎ、これはすげぇ」。馬の背は花崗岩がもろに露出した岩尾根で、冒険心をそそる地形は「アルプス」の名に恥じない迫力だ。所々に生える盆栽風のアカマツやガンピが、無機質な岩肌に花を添えている。

 馬の背を過ぎた後は、最高峰の横尾山(312m)は大した眺望もなく通過し、鉢伏山方面をカットして離宮公園内の登山口に降りた。早めに下山したのは、神戸でもう一つ訪れておきたいスポットがあったからだ。「人と防災未来センター」という名称では何のことか分からないが、いわゆる阪神淡路大震災の資料館。東京のお台場のようなピカピカの新しい海辺の街中にある。15年前に神戸を襲ったこの大地震に、当時高校3年生だった僕も大きな衝撃を受けた。

 地震が起きたのはちょうど大学受験の年で、千葉大学の試験を受けるために、僕は震災直後の神戸を通過せねばならなかった。山口から乗った新幹線は姫路駅で止まり、在来線に乗り換えて神戸市内に入り、私鉄やバスを乗り換えてようやく大阪に抜けられる状態だった。満員の徐行電車内から見える惨状を、すべての乗客が無言で見つめていたのが印象的だった。途中、駅から駅まで約1kmを歩いて移動する場所があった。辺りは見渡す限り茶色いガレキの山。足元に瓦や崩れた塀が散らばる中を、通過客らが長い行列を作って歩いた。まるで戦時中の空襲の街を歩いているようで、僕の脳裏では広島の原爆投下後の街並みがそれと重なった。

 その衝撃の出来事が記録された施設があると知り、この機会にぜひ訪ねたかったのだ。夕方4時過ぎに到着すると、受付で「今からすべての展示を見るには時間が足りませんね」と言われた。5時半で閉館なのだが、すべての展示を見るには2時間はかかるという。そんなにかかるなら事前に教えてよね・・・。順路は、まず「1.17シアター」という映像から始まる。物静かな施設の雰囲気とは打って変わって、けっこう衝撃的な映像だった。大地震の精神的ショックを受けた人には見られない映像だろう。以降、撮影禁止だったので詳細は同センターHPを見てほしいが、じっくり見たい展示がたくさんあった。ただ、小さな写真を並べた展示が多く全体の印象が薄かったのと、二次災害や救助活動、被災生活の実態などをもっと映像化してほしかったのと、地震の揺れを体感できる目玉アトラクションがほしかったのが残念な点だ。ともあれ、広島の原爆資料館と同様に、神戸を訪れたらぜひ見ておきたい施設の一つだと思った。

【今日見た注目樹木】
ウバメガシ、ノグルミ、ナナミノキ、カゴノキ、シラカシ、モチノキ、ヤマモモ、モチツツジ、コバノミツバツツジ(花あり)、イボタノキ(実)、ガンピ、カナメモチ、クチナシ、イヌザンショウ