街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

不思議なヒヨドリの渡りとアカツクシガモ飛来

 ヒーヨ、ヒーヨ、ヒーヨ・・・

 海を見渡せるベランダで朝食を食べていると、上空から聞き慣れた声が聞こえてくる。暖を求めて南方に渡るヒヨドリの群れだ。その数、ふつう200羽、大きな群れでは600羽におよぶ。9月下旬から10月下旬にかけては、荒天日を除いてほぼ毎日、我が家の上空を数十もの群れが渡った。時間帯は7〜8時が最も多く、多い日は1日5,000羽にも達しただろうか。

 我が家のある山口県光市付近からは、瀬戸内海を隔てて九州の国東半島が見渡せる。ヒヨドリたちは、決まって東の海岸線から飛んできて、九州方面に突き出た小さな半島(室積半島)を巻き込むように方向を変え、大海原へと飛んでゆく。すべての群れが同じルートをたどり、本州から九州へと渡っているように見える。彼らはどこからどこへ行き、なぜ皆がこのルートを知っているのだろうか?

 ヒヨドリは秋と春にほぼ日本国内で移動する(渡り)ことが知られているが、そのルートや距離はよくわかっていないらしい。また、九州など暖地の個体は移動しないというから、冬は九州の個体密度が増え、寒地や北海道のヒヨドリがいなくなることになる。我が家の上空は、ちょうど本州と九州の最短ルートにあたる(関門海峡を除く)ため、中国地方のヒヨドリたちの重要な渡りルートになっていると推測できる。最も身近な鳥でありながら、不思議で興味深いものだ。

 12月23日にも、20〜30羽の小さな群れを見た。今年最後の渡りか。思わず「がんばれよー!」と声をかけた。

 12月27日の昼過ぎ。地元の山口県田布施町で買い物をした帰り道、買い忘れがあって川沿いの道を引き返していると、何やら見慣れぬカモが1羽いる。珍しい鳥に違いないと思い、車中からコンパクトデジカメで撮影。車を降りてさらに近づこうとすると、飛んで逃げた。その独特の色は、一度見たら忘れられない美しさだ。

 帰宅して図鑑やネットで調べると、すぐにアカツクシガモの雌だとわかった。ユーラシア大陸に生息し、冬鳥として稀にごく少数が日本にも飛来するらしい。これは貴重だと思い、夕方に再度現地に訪れると、アカツクシガモは同じ場所にいた。今度は多少ズームのきくデジタル一眼レフで撮影し、土手に降りて近づこうとしたが、やはり警戒心が強いみたいで飛び立ってしまう。あまり刺激しないほうがいいみたいだ。

 この田布施川は、シジミやアユも棲むといわれる穏やかな川だが、下流には工場地帯があり、ここ20年の河川改修で無骨なコンクリート張りの護岸も増えた。特に自然豊かな川という印象はないが、カモ類の飛来は比較的多いようで、中上流部にはゲンジボタルが棲み、河口部にはカブトガニも生息する。地元に住んでいると何でもない川だが、こうした希少種の存在を知ることで、この自然環境を守ってゆく意識が高まればと思う。アカツクシガモの飛来は、翌日以降に地元のニュースや新聞で紹介された。