街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

難解なキリシマ・クルメツツジ群を紐解く

クルメツツジ


 造園・園芸用樹木とし非常に多く出回り、どこにでも普通に見られる割に、極めて分類が困難で紛らわしいツツジ類、キリシマツツジクルメツツジの仲間を整理してみたので、とりあえず記録しておく。簡潔に結論を言うと、「ヤマツツジ」「ミヤマキリシマ」「サツキ」は独立種としてはっきり区別できるが、「キリシマツツジ」「クルメツツジ」「サタツツジ」の3者は区別困難である。

 ここに挙げた6種のうち、クルメツツジは園芸品種群を指す総称として、学名をつけずに用いるケースが多いと思われる。その他の5種が個別の学名が与えられ、別種として扱う考え方が現在の主流のようである。一方で、サツキを除く5種をすべて同種(母種をキリシマツツジとし、そこから派生した園芸品種群をクルメツツジ、野生品をサタツツジ、変種にヤマツツジ、ミヤマキリシマ)とする考え方もあることから、サツキ以外の5種は非常に近い仲間であることが分かる。

 葉の外見的によく似ているのはヤマツツジを除く5種であろう。ごくごく通俗的な区別方法として私が提案するのは、サツキ=葉がやや細くて葉先が尖る、ミヤマキリシマ=葉先は丸くて剛毛が多く、都市ではほとんど植えられない、キリシマツツジ=サツキより光沢感が強くて先が丸い葉が交じる、クルメツツジキリシマツツジのうち花弁が二重になって咲くもの、サタツツジ=クルメツツジの野生品なので鹿児島県の山以外で見ることはない。

 今後、追加情報、修正情報などを加えてゆく予定。何か情報あれば下さい。(※注:春葉は春に生えて秋に落葉、夏葉は夏に生えて冬の間も枝に残っている)

ヤマツツジRhododendron kaempferiR. obtusum var. kaempferi)省略。

キリシマツツジR. obutusumR. obtusum var. obtusum)別名キリシマ。

  • (鹿児島県霧島に自生するツツジの中から江戸時代に選抜されたもの)
  • 春葉:長さ12-22mm、幅5-11mm。楕円形で先が尖る。
  • 夏葉:長さ15-30mm、幅7-15mm。倒卵形-倒卵状楕円形、光沢あり、先は鈍い。
  • 花形:径20-25mm。〔径30-40mm〕
  • 花色:朱色が基本、赤、紅紫、白もあり濃淡の変化大きい。
  • 花期:4-5月。
  • 代表園芸品種:‘本霧島’‘紅霧島’‘桜霧島’‘日の出霧島’‘白霧島’‘八重霧島’
  • 性質:関東の土壌にも適している。樹高2-3mに及ぶ。

クルメツツジR. obtusum var. sakamotoi

  • キリシマツツジを元に、明治初年から久留米で作られた園芸品種群、数百品種)
  • キリシマツツジとサタツツジを元に、江戸末期から久留米藩士によって作られた園芸品種群、約300品種〉
  • ヤマツツジとミヤマキリシマの交配から生まれた園芸品種群〕
  • 花形:小輪多花性で花時は樹冠一面が花で埋まる。ガクが花弁化した二重咲きの花形をもつ園芸品種が多い。
  • 花色:紫紅、桃、白、淡紅、紅、淡紫と変異が広い。
  • 花期:4月下旬-5月上旬(関東)。
  • 代表園芸品種:‘麒麟’‘宮城野’‘暮の雪’‘今猩々’‘裾濃の糸’‘若楓’‘花遊’‘福寿’‘大勲位’‘福彦’‘小町’‘世界一’‘薄緑’‘常夏’‘いろは山’‘思の空’‘若蛭子’‘日の出の雲’‘富士旭’
  • 性質:都会の環境によく耐える強健なグループ。

●サタツツジ〈R. sataenseキリシマツツジの野生品)別名ヒメマルバサツキ。

  • 分布:鹿児島県大隅半島薩摩半島開聞岳桜島、高峠、大中尾など)。佐田岬にちなんだ命名
  • 春葉:長さ15-35mm、幅5-15mm、倒卵状楕円形。両面に伏毛。
  • 夏葉:長さ10-20mm。褐色の扁平な毛が密生。小型で丸みを帯び、表面に強い光沢がある。
  • 花形:中輪一重、多花性、一枝に2-3花の花序が4-5つ付くので、しばしば計15以上の花が付く。→クルメツツジに継承された特徴。花冠裂片は丸く、平開する。
  • 花色:淡紫紅が基本、白、桃、ピンク、濃紅紫、紅など多彩な変化がある。
  • 花期:4-6月。
  • 性質:樹高2mに及ぶ。

●ミヤマキリシマ(R. kiusianumR. obtusum var. japonicum

  • 分布:九州の主に標高1000m以上の高地(雲仙、九重、阿蘇、霧島、由布岳鶴見岳など)に生える。
  • 春葉:長さ8-30mm、幅5-15mm。楕円形または倒卵形。両面に淡褐色の扁平な毛が生える。
  • 夏葉:長さ5-15mm。へら形。
  • 花形:花径20mm前後、最小輪の部類。花弁上部のブロッチ(ガイドマーク)がないのが特徴。八重咲き、絞り咲き園芸品種もある。
  • 花色:淡紫が基本、紅、紅紫、白、桃、ピンクなど変異多彩。
  • 花期:4-6月。
  • 代表園芸品種:‘春の宵’‘深山裾濃’‘藤娘’‘舞扇’‘九重’‘霧の夢’
  • 性質:高山性のため平地での栽培は技術を要する。樹高1m程度。ヤマツツジとの自然雑種もある。

●サツキ(R. indicum別名サツキツツジ。省略。

(参考文献)
『園芸植物大事典』(小学館)『日本の野生植物』(平凡社)『樹に咲く花』(山と渓谷社)『樹木図鑑』(NHK出版)『園芸植物』(山と渓谷社)『庭木と緑化樹』(誠文堂新光社)他