街森研究所

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原発タブーの崩壊

 福島原発の事故以来、日本の報道が大きく変わったことがある。「原発タブー」の崩壊だ。
 2年前、私が取材していた上関原発問題を、ある週刊誌の編集部に持ち込んだ時の話。若い担当編集者は「ぜひ記事にしましょう!」と意気込んでくれたが、数日後、「ボツになりました。上司から出版社全体の広告主に悪影響があると言われました」と力なく電話してきた。これが事故前の現実で、全国規模のテレビや新聞、雑誌ほど、原発に批判的な報道はタブーだった。日本最大級の企業である電力会社(と原発関連産業)は、マスコミ最大のスポンサーでもあるからだ。
 一方で国は、原発を推進する活動には莫大な予算をつけ、批判する動きは厳しく監視してきた。「原発は絶対安全」「原発は環境にいい」と、広報や教育にも力を注ぎ、世論さえ操作しようとしてきた。しかし、その原発は爆発し、国は放射能汚染の実態を隠し続け、マスコミも原発を懐疑的に報道せざるを得なくなった。
 「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する」とは、歴史学者アクトンの名言だ。残念ながら、現代の先進国家や巨大マスコミも例外ではない。インターネットは多くの真実が得られるメディアだが、全くのウソもある。今後の放射線被害を最小限にするためにも、私たちの情報を選ぶ力が問われている。



事故前の福島第一原発(2009年8月 筆者撮影)

※この文章は2011年7-8月に山口新聞「東流西流」に掲載された連載記事を一部修正したものです。