街森研究所

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我が家の電源;新潟県・柏崎刈羽原発を訪ねる

 あなたの家の電気は、どこの発電所から送られて来てますか? そんなの考えたことない。知りたいと思ったこともない。知らせようともされていないし、知ることができない仕組みになっている。・・・これが今の日本の、電力業界の実情です。私はこれに大きな疑問を持っています。

 ここ1年余りで、関東地方に住む人は意外な事実を知りました。なんと、関東の電力の一部(およそ2割ぐらいか)は、新潟県柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発から送られていたのです! えっ、そんな遠くから? ・・・と書くと大げさでしょうか。2007年7月に起きた新潟中越沖地震で、柏崎刈羽原発で火災が発生し、7つある原子炉が全て停止したことは記憶に新しいでしょう。1年以上たった今も補修&停止中で、眠っていた東京湾岸の火力発電所を代替用に稼働させたため、東京電力は赤字を計上し、化石燃料の燃焼によるCO2の排出量が増え、電気代も上がることになっています。

「電気代が上がるのは柏崎刈羽原発が停まっているせいです」「一刻も早く運転再開し、電気代を安くしてCO2排出量を減らすために、柏崎刈羽原発の再開を応援して下さい」と言わんばかりに、柏崎刈羽原発の修理風景を紹介した東京電力のテレビCMがたくさん流れるようになりました。幸か不幸か、私たち関東人は、この一連の原発震災とCM広告によって、柏崎刈羽原発の恩恵を知ることになった人も多いと思います。何を隠そう私もその一人ですが、とはいえ、我が家のある神奈川県西部まで新潟県産の電力が来ているとは思えない。まあ北関東の人が恩恵を受けているんだろう、ぐらいに思っていました。

 ところが、とある電力PR施設で送電線図を見て愕然としました。なんと、柏崎刈羽原発から伸びる50万ボルトの超超高圧送電線は、西群馬の開閉所を経て、山梨県東山梨変電所、静岡県新富士変電所、そして我が家のすぐ裏に見える新秦野変電所へと一直線に伸びているではありませんか。柏崎刈羽産電力の主な供給先は、山梨県全域、静岡県東部、神奈川県西部だったのです(こうした情報はあからさまには唱われていません)。それを知って、私はにわかに柏崎刈羽原発に親近感を感じ、新潟の人たちに感謝しました。私はこの原発にもっと関心を持ち、この事故をもっと深刻に受け止めなければいけなかったのです。

 11月4日、その柏崎刈羽原発を見学してきました。マグニチュード6.8の爪痕を大きく残す敷地内では、至る所に足場が組まれ、作業員が補修工事に精を出し、凸凹に波打った道路はピカピカに張り替えられていました。PR施設であるサービスホール玄関の階段は、地震で隆起したために1段増え、原発入口前にかかる国道352号線の陸橋には、今も生々しい亀裂が走っています。正常運転時は約5000人と言われる敷地内の労働者は、停止中の現在は約8000人に膨れ上がり、例によって柏崎市内の宿泊施設は大賑わい。泊まり切れなかった関係者は、約40キロ離れた長岡市のホテルにまで流れ込むと言います。

 “テロ対策”という名の下、敷地内で撮影が許される場所は展望所の1カ所のみで、しかも「あの場所をズームで写してはいけません」とか、妙な注文が入ります。PR施設に展示された敷地模型でさえ「“テロ対策”で撮影禁止です」と制止されますから、いやが上にもココは相当危ない施設なんだなと思わされます。原発だけではありません。先に挙げた送電線系統図さえ、今は“テロ対策”で大っぴらには公表されていません(PR施設内ではある程度の展示はされているのですが)。
 テロリストに送電線を破壊されたらそりゃ大変だと思うけど、送電線なんて町中や山中にドーンと建ってるから隠せる物ではないし、大規模発電所が停止して大打撃を受けるのなら、長距離送電を必要としない小規模分散型の発電方式を広め、電気エネルギーだけに頼りすぎない社会を築いて、リスク分散した方がよいのではないでしょうか。そして何より、“テロ対策”の名の下に、電力の産地が国民に知らされないことに私は問題を感じます。食料や水、木材などの産地を知って、そのありがたみや感謝の気持ち(あるいは疑問)が生まれるように、電気の“産地表示”(トレーサビリティ)や“地産地消”が進めば、私たちはもっと大切に電気を使うようになると思います。たまに電気が品切れにでもなれば、今みたいな無駄遣いは絶対しなくなると思います。

 私が話を聞いた柏崎市刈羽村の市民は、みんな電気を消費地をよく知っていました。柏崎刈羽原発の電気は、新潟県内では使われず、すべて関東地方に流れているということを。そして私が、「関東の人は、新潟中越沖地震が起きてから初めて柏崎刈羽原発の電気が来ていることを知った人が多いと思いますよ」と言うと、みんな驚いていました。いやいや、私だけが無知だったのかも知れない。私より長く関東に住んでいる人たちは、新潟や福島(そして数年後には青森も)の原発から恩恵を受けていることを、よく知っているに違いない。