街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

クマは絶滅するのか

 薄暗い山奥の森を歩くのは、あるリスクが伴う。クマ(ツキノワグマ)との遭遇だ。彼らが人を攻撃するのは、彼らも人を恐れている時で、本来は人を襲う動物ではない。鈴やラジオをつけ常に音を発することで、クマの方から遭遇を避けてくれる。
 生態系の頂点に立つクマは、他の獣に比べ個体数はずっと少ない。生き物好きの私からすれば、出会えるとむしろラッキーだ。私は過去に2度、野生のクマに遭遇しているが、いずれも安全な距離があった(写真=尾瀬ヶ原で筆者撮影)。怖いのは至近距離での遭遇。クマから視線をそらさず、ゆっくり後ずさりすることが大切で、決して背中を見せ走ってはいけないといわれる。
 そのツキノワグマが絶滅の危機にある。日本には1万2千頭が棲むともいわれるが、近年は人里での出没が増え、06年に4千頭余り、10年にも3千頭が殺処分された。既に絶滅したとされる九州、残り数十頭といわれる四国に続き、このままでは本州での地域的な絶滅も近い。農林業が廃れ、人が山に入らなくなったことで、クマやイノシシが頻繁に人里に下りるようになったといわれる。
 かつて日本人は、家畜の害獣オオカミを駆除し続け絶滅させたが、その後シカが増え、シカが畑の作物や貴重植物まで食べ荒らすようになった。クマ問題もダム問題も原発問題も同じ。目の前のリスクを取り除く対処療法だけでは、問題は解決しない。



※この文章は2011年7-8月に山口新聞「東流西流」に掲載された連載記事を一部修正したものです。