街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

富士山で高山病を経験して思う

 張り切って富士登山にチャレンジしたはいいけど、まさか高山病体験記を書くことになるとは思っても・・・みていた。一緒に登ったメンバーは同世代のフットサル仲間9人。その半数以上は登山初心者で、登山前に僕は「高山病は誰にでも起こりうるから、気分が悪くなったらすぐ言うように」と偉そうに言ったはいいが、ふたを開けてみれば高山病の症状が最も重く出たのは自分で、みんなに励まされながらなんとか登頂できたのであった。これまで3000m台の山に2回登ったときはほぼ異常はなかったから、ショックはショック。でも、もともと僕は酸素欠乏に敏感で頭痛持ちで、例えば素潜りや水泳を長時間行ったり、空気がこもったデパートで長時間買い物をすると頭が痛くなるし、睡眠不足でもすぐ頭痛になる。だからある程度の覚悟はしていた。

 お昼12時30分に須走口登山口(五合目標高2000m)を出発。天気もよく快適な登りであったが、途中2600mあたりから女の子1人が頭痛や疲労で遅れ始め、僕は付き添って最後尾を歩く。しかし、3000m付近から自分も軽い頭痛を感じてきた。宿泊地の下江戸屋(八合目3270m)に着いたのは17時10分。夕焼けを眺め、ここで休めば頭痛も治まると思っていたが、ご存知の通り週末の富士山の山小屋はすし酢め状態。与えられたスペースは1人枕一つ分の幅(30-40cm)で、周囲はおしゃべりの声や携帯の音、行き交う人のヘッドライトなどでとても熟睡できない。床に着いたはいいがほとんど寝付けず、しかも頭痛はだんだんひどくなってくる。途中、「食べる酸素」という酸素補給用の粉末を飲んだけど、気分が楽になったのは1時間程度で、すぐに症状は戻った。

 23時、外の空気を吸おうと思って布団から出ると、急激に吐き気を感じてきた。「これは完全に高山病の症状だ、こんな状態ではとても登頂できない、僕だけ降りよう」とさえ思った。聞くと、あの女の子も全く同じ症状で、外の空気を1時間ほど吸うと良くなったという。僕も外に出て深呼吸を繰り返し、少し体を動かして血液を循環させ、酸素吸引もした。頭痛薬も飲んだ。すると、1時間後には吐き気も頭痛もほぼ治まり、再び登頂する意欲がわいてきた。

 午前1時30分、登頂再開。しかし、高山病はすぐに襲ってきた。20分ほど休憩なしで登ったところ、また頭痛が再発。上江戸屋(標高3370m)前で少し休憩して、以後もっとゆっくり歩くことに。と思ったがその心配は不要。ここからは河口湖口の登山道が合流するため、ご来光を目指す登山客の大渋滞となる。噂には聞いていたが、想像以上。数千人という登山客が太い列をなし、山頂までの標高差約400mの急斜面を埋め尽くす。そのヘッドランプの列は、まるで空から天の川が降ってきたようだ。通常1時間30分のコースは、倍の3時間を要する。この間、頭痛と吐き気は悪化し続け、睡眠不足と相まってフラフラになりながら登り続けた。先頭のメンバーから遅れること30分、5時50分にようやく山頂(実際は約3740m)に着いた。雲が多くて小雨も降り、ご来光は仰げなかったが、日の出から約1時間後、視界を覆っていた雲が風に流され、深い青空とまぶしい太陽が突然現れた(写真)。歓声が上がった。この景色だけで十分満足だ。これまでの登山経験の中で一番つらかったけど、富士山の場合は登山とか観光地の次元ではなく、宗教的なエネルギーを感じた。

 高山病に苦しみつつも、山頂で1時間滞在し、火口の景色やあったかいおしるこを楽しむ。6時50分下山開始、宿泊した下江戸屋まで降りて30分ほど休憩すると、頭痛も吐き気もだいぶ治まった。標高3000mの七合目からは須走口名物の砂走り(写真)ルート。かなり楽しくて飛び跳ねて駆け下りたら、その衝撃で頭痛がひどく悪化。再び頭痛薬を飲んで、休憩を挟みながら下り続けると、いつしか頭痛は消えていた。10時10分須走口五合目到着、無事下山。

 今回初めて高山病を経験して、思うところがある。まず登山のスケジュール。今回の富士登山、徹夜で登るか山小屋一泊かを迷い、徹夜は絶対つらいと思って山小屋一泊を選択したのだけど、はっきり言って徹夜のほうがいい。なぜなら、混雑した山小屋では熟睡はほとんどできない(9名中熟睡できたのは1名のみ)し、山小屋内のこもった空気、すなわち酸素濃度の低い空間に滞在することで、高山病の症状は間違いなく悪化した。我がパーティでは、僕とその女の子以外にも2、3名が頭痛や気分悪化を感じていた。しかも、そのうち2名は過去に富士登頂を徹夜で達成しており、そのときは高山病の症状はなかったという。コンディションの違いもあるが、山小屋宿泊が裏目に出たと言わざるを得ない。夜中の1時前後に山小屋を発つなら、いずれにしても徹夜に近い状態なのだ。一番いいのは、前日にしっかり睡眠をとって、休憩を十分とりながら徹夜で登る方法だろう。一生に一度しか登らない山と思っているけど、もし次登るなら徹夜かな。

 ついでに言えば、山小屋のあり方にも疑問を感じた。予約の段階から詰めるだけ詰め込み、常識的に安眠できない状態で運営するのはいかがなものか。せめてもっと換気を良くして外気を取り込む構造があれば、多くの人の高山病症状は和らいだと思う。こうした高山病や山小屋の情報は、一般の登山客は事前に入手しづらい。とはいえ、日本一高い富士山に登るなら、それくらい自己責任で綿密に情報収集すべきだったのかもしれない。

【5-6合目で見た注目種】
オンタデ、フジイタドリ、ムラサキモメンヅル花、コケモモ花、ミヤマハンノキ、ミヤマヤナギ、ウラジロハナヒリノキ、ハナヒリノキ、ダケカンバ、カラマツ、コメツガ、シラビソ、ナナカマド、ウラジロノキ、タカネザクラタカネバラ、ミヤマアオダモ、ヤハズハンノキ、ハクサンシャクナゲ、ミヤマハンショウヅル花、シモツケ