街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

船場吉兆が「悪」とは思わない

 高級料亭の「船場吉兆」が、まだ食べられる食品の賞味期限ラベルを貼り直して再び販売し、まだ食べられる食べ残し料理を再び客に出していた。別に実害を受けた人がいる訳でもないようだし、僕の正直な感想は、「えっ、そんなに悪いこと?」。むしろ、物を粗末にする現代日本において貴重な精神では・・・とさえ思ってしまう。

 けれども、ニュースのコメンテイターたちはこぞって「信じられませんね」「絶対にあってはならないことです」「モラルを疑います」などと発言する。本当にそれが日本人の総意か? ならば、賞味期限が過ぎたら無条件で廃棄し、一度客に出したら無条件で廃棄することが「正しいこと」で「モラル」なのか? そう言う彼らは、飲食店やスーパーでどれだけ食べられる物が捨てられ、豚のエサにもされずゴミにされているか見たことあるのだろうか? 食料自給率(約40%)世界最低水準の日本が、世界「最高」水準の食料廃棄率(約25%)を誇っていることを知った上での発言だろうか?

 レストランや居酒屋の厨房でアルバイトをしていた学生時代、僕が作った料理の何割かは、洗い場の脇のゴミ箱に次々ぶち込まれた。明らかに手をつけていない料理も容赦なくぶち込まれた。ホールのスタッフは、客の食べ残しを時々こっそりつまみ食いしていたが、店長に見つかると怒鳴られた。僕はその食べ残しを自分の賄い料理に使いたかったけど、それができずにもどかしかった。

 賞味期限が切れた食べ物は、僕はまず匂いを嗅いで、カビや傷みがないかを確認して、それでも分からなければ少し口に含んでみて食べられるかどうかを判断する。時にはお腹をこわすこともあるけど、そういう嗅覚は生物として失ってはならないと思う。今の日本人は、情報に左右されすぎる余り、物事の本質を掴む感覚を失いつつあるのは間違いない。

 船場吉兆がやってきた手法が「良いこと」とは言わない。けれども、最近のこうした一連のニュース報道を見て、あまりに潔癖で、あまりに身をわきまえない食糧大量廃棄の肯定ぶりに、いい加減ウンザリしている。「もったいない」が日本人特有の文化ならば、本当はおかしいことを誰も「おかしい」と言えない社会も日本人特有だろう。せめてなら、船場吉兆の言い訳会見で「だって、もったいないと思いませんか!?」と開き直ってほしかった。