街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

シーカヤックで昔夢見た海を歩く

 子供の頃から眺めてきた海、遊んできた海、食べ物を恵んでくれてきた海。そんな見慣れたはずの瀬戸内海・周防灘(すおうなだ)が、初めての海に見えた。知らない世界に見えた。

 島と島がこんなに近くて、この場所はこんなに浅かったこと。冬は水がとても澄んでいて、島の裏側の岩にはヒジキがたくさん茂っていること。そして、カヤックに乗れば海をこんなに自由に行き来できること。それは、「舟に乗る」というより「海を歩いている」感覚に近い。

 僕が通った小学校、山口県熊毛郡田布施町(たぶせちょう)の麻里府(まりふ)小学校では、毎週1回、海まで歩いて行ってカヌーやヨットに乗る「海洋実習」があった。こんな授業があるのは海辺の小学校の特権で、とても楽しかったし誇りに思っていた。舟の出し運びや洗うのも自分たちでやったし、沈の練習といって沈没した舟から復帰する練習もした。けれども、舟を自由に漕がせてもらえたのは岸からせいぜい100m程度の範囲だった。「この舟で馬島(うましま)まで行ってみたいな」・・・そんな願望(不満?)を持っていたのをはっきり覚えている。

 あれから約20年、ようやくその夢を実現できた訳だから感動である。この日は田布施町の麻里府港を出て、馬島、佐合島(さごうじま)と上陸し、計約14kmを漕いだけど、穏やかな凪だったこともあり、驚くほどスムーズに移動することができ、疲労もほとんどなかった。海水の冷たさも思ったほど気にならず、透明度がいいからむしろ素潜りしたくなるぐらいだ。なぜこの20年間、カヤックに乗るという選択肢を思いつかなかったのだろう? それくらいの感激があるものだ。

 海は漁師だけのものではないし、大型船の専用道でもない。人間の所有物でもなくて、生き物すべての、みんなのものだ。だからこうして、海を自由に歩く楽しさを多くの人に体感してほしい。

周防灘でシーカヤック体験をしたい方は、この日僕がお世話になった以下のショップへどうぞ。
ダイドック・オーシャンカヤックス山口県周南市櫛ケ浜