街森研究所

街や森で出会った木々や生き物、出来事などを紹介しています

エネルギー盛りだくさんの佐田岬半島

 「鬼は〜外」の2月3日と4日、愛媛県佐田岬半島に出かけてきました。今回は、私の地元・山口県から最も近い原子力発電所、伊方(いかた)原発を訪ねるという目的があります。天気がよい時は山口県南東部から肉眼で見える原発で、山口県に計画中の上関(かみのせき)原発問題について勉強するのにももってこいです。さっそく四国電力に見学を申し込むと、「一般見学は四国の人しかお受けしておりません」との答え。「そんなぁ、山口県から見える原発なのに、勉強のための見学もさせてくれないの?」とダダこねたのですが、「部署間で検討しましたがやはりダメです」との最終返答。四電(よんでん)の人はテロ対策とか核防護とか言うけれど、四国の人は見学できて、もっと近くに住んでいる中国地方の人は見学できないという合理的な根拠はありません。ということで、今回もジャーナリストとして「取材」という形で訪ねてきました。

 伊方原発の敷地内から撮影が許可されているのは、敷地南西部に突き出たクレーンのある船着き場と、北東部の高台にある展望所の2カ所のみです。一方で、敷地のすぐ外を通っている県道255号線の複数地点からも伊方原発はよく眺められるので、県道から撮影した方がむしろ全景がよく分かります(上写真)。ドーム型に見えるのが原子炉建屋で、左から1号機(1977年運転開始)、2号機(1982年)、3号機(1994年)です。その右手前には体育館も見えます。ちなみに手前の工事中の建物は、低レベル放射性廃棄物を圧縮して減らす「高圧圧縮減容設備」と、燃やして減らす「雑固体処理建屋」です。三方を山に囲まれ、周囲の集落からは見えない場所にあるので、地元の人は原発の存在を意識せずに生活できる立地と言えます。展望所内の案内板には、対岸に見える山口県の島々の名前が記されており、苦笑してしまいました。四国の人は直接見えないから見学できるけど、山口県の人は直接見えるんだから双眼鏡でも使って眺めて下さいって?

 そんな人口1万2千人の伊方町には、こんな立派な役場(上写真中央)があります。6階建てのビルは、道路向かいの伊方町民会館や町立図書館と連絡通路で繋がってて、その豪華さに驚きです。これも財政豊かな原発立地自治体の特権と言えるでしょう。その5・6階には、「愛媛県オフサイトセンター」が入っています(下写真)。オフサイトセンターとは、1999年に起きた東海村JCO臨界事故を教訓に設置が義務づけられた緊急事態応急対策拠点施設で、万一の原子力災害時には国・自治体・原子力事業者らが一堂に介し、情報を共有化しつつ災害対策の指揮を執ります。普段は年数回の防災訓練にしか使われないため、ガラーンとしているのですが、その中の設備は豪華でスゴイ。大型モニタ、マイク、衛星電話、気象予測システム、自衛隊車両・避難船・ヘリなどの配置検討用マップなど、一見の価値がある施設です。

 この日は、原発からなるべく近い宿に泊まろうと思い、伊方町の川永田という集落にある大瀧荘に宿泊を申し込みました。原発の定期検査の作業員を中心に受け入れている旅館で、建物は合宿所のようなプレハブです。2月下旬に始まる定検に備え、各部屋には「○○電気」「○○建設」などの下請け会社の名札が貼られ、現場の空気が伝わってきます(写真下)。ここのご主人は、元はミカンの専業農家でしたが、原発稼働後に定検作業員の宿舎不足で頼まれて旅館業を始めたそうで、今は伊方町商工会の副会長も務めておられます。そのご主人が2時間半に渡ってお話を聞かせてくれました。原発財源で地元の財政や雇用が潤った一方で、事あるごとに電力会社に振り回され、町の主体性がなくなったことや、いつ原発が停まっても大丈夫なように、自分は今も農業にしっかり力を注いでいることなど、原発と共に暮らす心理が伝わってくるとても興味深い内容でした。世の中、原発「反対派」と「推進派」の2色に分けられるわけではないことを実感した瞬間です。

 翌朝6時半、佐田岬半島のつけ根、四国最大級の八幡浜市魚市場に見学に行ってきました。すごい、すごい、すごい。広い市場の屋根の下に、赤、青、黄、何種類もの魚が並び、イカやナマコ、エビ、サザエも山積み。威勢のいい掛け声が朝焼け空にこだまし、市場の横はカモメたちが飛び交います。こんなにエネルギーに満ちあふれた場所に足を踏み入れたのは久しぶりで、言いようのないワクワク感に包まれました。原発があると漁業に悪影響があるのではないかと心配したけど、これだけ活気があれば大丈夫! そんな気になってきます。ただ、ここでは佐田岬半島の北か南かで魚の評価は大きく異なるそうです。北側の瀬戸内海の魚はマズくて安い。南側の宇和海・太平洋の魚はウマくて高値が付く。八幡浜市魚市場があるのは半島の南側で、伊方原発があるのは北側です。

 今日の見学は風力発電です。なぜだろう、昨日に比べると足取りが軽く、すがすがしい気分。原発見学は制約が多くて、否応なくリスクやダーティーな情報が中心になるのに対し、正真正銘のクリーンエネルギーである風力発電の見学は、自由で明るい雰囲気を感じます。まずは「せと風の丘パーク」で伊方町役場の方の解説を受け、その後、瀬戸ウィンドファーム、三崎ウィンドパークなどを見て回りました。佐田岬半島には現在48基の風車があり、今後1年で約60基に達するという西日本有数の風力発電地帯です。エネルギーの故郷・伊方町を訪れるのなら、原発とともにこの風力発電を見学しない手はありません。ただし、いいイメージばかりの風力発電にも課題はあります。まず、常に風に左右されるため電力の安定供給性が劣ること、そして一部では騒音問題も起きています。下写真の三崎ウィンドパークでは、近隣住民から眠れないと苦情があり、今は4基の風車が夜間停止しているそうです。

 最後におまけ。伊方町民会館内にある「伊方原子力広報センター」では、放射線測定器(ガイガーカウンター)が無料で貸し出されています。この測定器「はかるくん」でどこまで正確な数値を測定できるのかは知りませんが、今回、6年ぶり(!)の貸出者として借りることができました。実際に測定しながら移動すると、場所によって微妙に放射線量が異なることを実感でき、貴重な体験になりました。普段は0.015μSv/h(マイクロシーベルト毎時)前後なのですが、花崗岩(かこうがん)の上に置いた時は0.113μSv/hまで上がって驚きました。なお写真は、四国特有の緑色片岩(りょくしょくへんがん)に置いた時の写真で、この岩でも多少の数値の上昇が見られました。

 ともあれ、原発のエネルギー、風力のエネルギー、魚市場のエネルギー、地元のエネルギー、いろんなエネルギーの未来と課題をいろいろ考えることができた、充実の佐田岬半島旅行でした。